免税店制度リファンド方式移行について
令和8年11月1日から、日本の免税店制度が根本的に変わります。従来の「その場で免税価格販売」から「税込価格販売→出国時返金」というリファンド方式への完全移行は、免税店事業者にとって歴史的な転換点となります。この変更により、外国人観光客の免税購入がより確実で透明性の高いシステムになる一方、事業者は新たな業務プロセスへの対応が必要となります。
本記事では、リファンド方式の基本概念から具体的な変更内容、事業者が準備すべき事項まで、制度移行に関する重要情報を網羅的に解説します。免税店経営者や関連事業者の方は、ぜひ参考にして適切な準備を進めてください。
リファンド方式とは?4つの主要変更点を理解する
リファンド方式は、免税店での購入時に一度消費税を含む税込価格で商品を販売し、購入者が出国時に税関確認を受けた後に消費税相当額を返金する制度です。これまでの「販売時点で即座に免税適用」から「後払い型の免税制度」への根本的な転換を意味します。
変更点1:税込価格(課税)での販売
従来は外国人旅行者が免税店で商品を購入する際、その場で消費税を除いた価格で販売していました。リファンド方式では、まず日本人と同じように消費税を含んだ税込価格で販売します。これは販売時点では通常の課税取引として扱われることを意味します。例えば、10,000円の商品なら消費税10%を含めた11,000円で販売されます。
変更点2:購入日から90日以内の出国時税関確認
購入者は買った商品を実際に国外に持ち出すことを証明するため、購入日から90日以内に出国する際、空港や港で税関職員による確認を受ける必要があります。この確認により「商品が確実に日本から輸出された」ことが公的に証明されます。90日という期限は購入日の翌日から数え始めて90日目までを指します。
変更点3:購入記録情報と税関確認情報の保存
免税店を経営する事業者は、商品を販売した時の記録(誰に、何を、いくらで売ったか)と、税関が「確かに商品の持ち出しを確認した」という旨の情報(税関確認情報)の両方を保存する義務があります。これにより、適正な免税取引であることが記録として証明されます。
変更点4:確認後の消費税相当額返金
税関での確認が完了した後、免税店事業者は購入者に消費税分のお金を返します。先ほどの例では、11,000円で販売した商品について1,000円(消費税分)を返金することで、実質的に10,000円での免税販売が完了します。返金方法は銀行振込、クレジットカード、アプリ送金、現金など様々な方法が考えられています。
従来制度からの根本的変化:販売と免税適用の分離
従来制度とリファンド方式の最も重要な違いは、「いつ免税が適用されるか」のタイミングです。従来は購入と免税適用が同時に行われていましたが、リファンド方式では購入時点と免税適用時点が完全に分離されます。
従来制度の流れは「お客さんが商品を選ぶ→その場で免税価格で販売→免税適用完了」でした。一方、リファンド方式では「お客さんが商品を選ぶ→税込価格で販売→出国時に税関で確認を受ける→免税が適用される→消費税分が返金される」という流れになります。
この変更により、商品の輸出担保が強化され、税務処理の透明性が向上し、不正な免税取引の防止効果が期待されます。ただし、利用者と事業者の両方にとって新しい手続きへの対応が必要となります。
免税対象物品の大幅簡素化:区分廃止と上限撤廃
従来制度では、免税対象物品が「一般物品」と「消耗品」に分類されており、それぞれ異なるルールが適用されていました。リファンド方式ではこの区分が完全に廃止され、大幅に簡素化されます。
項目 | 従来制度 | リファンド方式 |
---|---|---|
商品区分 | 一般物品・消耗品に分類 | 区分廃止(統一) |
購入金額 | 一般物品:5千円以上 消耗品:5千円以上50万円以下 | 5千円以上(上限なし) |
特殊包装 | 消耗品は必要 | 不要 |
用途制限 | 通常生活の用に供する物品 | 制限なし |
この変更により、従来は50万円の上限があった消耗品(化粧品、医薬品、食品など)も制限なく免税対象となります。また、消耗品の特殊包装が不要となり、購入後すぐに商品を使用することも可能になります。店舗スタッフが商品の分類を判断する必要もなくなり、手続きが大幅に簡素化されます。
90日ルールと税関確認手続きの重要性
リファンド方式では、免税対象物品を購入してから税関で確認を受けるまでの期限が90日間と定められています。この期限は免税制度の適正な運用にとって非常に重要なルールです。
期限の計算は、購入日の翌日から数え始めて90日目までとなります。例えば11月15日に購入した場合、計算開始日は11月16日(購入日の翌日)となり、確認期限は翌年2月13日(11月16日から数えて90日目)になります。
この90日間の期限を過ぎてしまうと、税関での確認を受けることができなくなり、消費税の返金を受けられません。場合によっては消費税の追加徴収や罰則が適用される可能性もあります。購入者は購入時に確認期限を確実に把握し、旅行計画を立てる際はこの90日ルールを考慮する必要があります。
税関確認の際は、同一の購入記録(一度のお買い物)に含まれるすべての商品を所持している必要があります。一つでも商品が不足していると、その購入記録に含まれるすべての商品について確認を受けることができません。
購入記録情報の電子化と高額商品の特別要件
リファンド方式では、すべての免税取引において購入記録情報の電子化が必須となります。国税庁が運営する免税販売管理システムを通じて、購入情報と税関確認情報が一元管理されます。
必須の購入記録情報には、購入者の基本情報(旅券番号、国籍等)、商品情報(品名、価格、数量等)、販売店舗情報、販売日時が含まれます。
特に注目すべきは、単価100万円(税抜価額)以上の商品については「商品情報詳細」という追加情報の設定が義務付けられていることです。これには免税対象物品の具体的な名称、ブランド名、型番、形状や色彩等の特徴、鑑定書(鑑別書)または保証書付きである旨が含まれます。シリアル番号が付された商品(腕時計など)については、シリアル番号の記録も必須です。
この制度により、高額商品が確実に本人により持ち出されることを確認し、同じブランドの似たような商品での不正な差し替えを防ぐことができます。
返金方法の多様化と事業者の選択肢
リファンド方式における返金手続は、制度の利便性を左右する重要な要素です。購入者にとって使いやすく、事業者にとって実行しやすい方法を柔軟に選択できるよう、複数の返金方法が想定されています。
考えられている主な返金方法には、銀行振込、クレジットカード送金、アプリ送金(PayPay、LINEPay、WeChat Pay等)、出国港内での現金返金などがあります。重要な点として、具体的な返金方法は消費税法令において厳格に定められているわけではなく、事業者の創意工夫により最適な顧客サービスを提供できるよう配慮されています。
各事業者は自社の顧客層や事業規模に応じて最適な返金方法を選択・提供でき、制度全体の利便性向上が図られています。また、免税店事業者が直接返金を行うのではなく、承認送受信事業者などの専門業者に返金業務を委託することも可能です。
免税店許可要件の変更と電子化対応の必須化
リファンド方式への移行に伴い、免税店の区分と許可要件が大幅に見直されます。従来の「一般型免税店、手続委託型免税店、自動販売機型免税店」の3区分から「一般型免税店、自動販売機型免税店」の2区分に簡素化されます。
新たな許可要件として、従来の要件に加えて「免税販売手続や購入記録情報の提供及び税関確認情報の受領を適正に実施するための必要な体制が整備されていること」が追加されます。これは電子化システムへの対応能力を求めるものです。
最も重要な点は、令和8年10月31日までに「購入記録情報の提供方法等の届出書」を提出していない免税店は、同日をもって許可の効力を失うことです。つまり、電子化対応は必須条件となり、対応できない店舗は免税店として営業を継続することができません。
課税売上から免税売上への振替処理方法
リファンド方式では、商品販売時に課税売上として計上した取引を、税関確認後に免税売上に変更する「振替処理」が必要になります。これは従来制度にはなかった新しい会計処理です。
認められている方法は2つあります。一つ目は「税関確認情報取得の都度振替える方法」で、税関確認情報を取得するたびにその都度、該当する課税売上を免税売上に振り替えます。二つ目は「月次等の一定タイミングで一括振替える方法」で、月次や四半期など一定の期間ごとにまとめて振替処理を行います。
商品販売と税関確認が異なる課税期間にまたがる場合には、従来の「販売を行った期の申告を修正する方法」に加えて、「税関確認情報を保存した期において売上げに係る対価の返還等として調整する方法」も新たに認められています。この方法により、過去の申告書を修正する手間が不要となり、事務処理が大幅に簡素化されます。
令和8年11月1日完全移行への準備の重要性
リファンド方式を含むすべての改正内容は、令和8年11月1日から適用されます。現行制度とリファンド方式の併用期間は一切なく、同日以降は完全にリファンド方式のみとなります。
事業者が準備すべき事項には、電子化システムの導入・テスト、返金システムの構築、税関確認情報の受領・管理体制の整備、従業員の教育・研修、購入記録情報提供方法等の届出書提出(令和8年10月31日まで)があります。準備が不十分な場合、令和8年11月1日以降に免税販売ができなくなる可能性があります。
この制度変更は単なる手続きの変更ではなく、免税店事業の根本的な業務プロセスの変革を意味します。外国人観光客の利便性向上と税務手続の効率化を目的とした重要な改正であり、適切に対応することで、より効率的で透明性の高い免税事業の展開が可能となります。免税店事業者の皆様には、十分な準備期間を確保した早期の対応をお勧めします。
